面会拒否をお見舞いされた日

日曜日、細君の面会に彼(息子)と彼女(娘)の三人で病院に向かうことにした。
彼は私の教えた細君の入院している階と病室番号と目印 *1 をメモに取り、「よしっ」と言いながらポケットに入れ、彼女は土曜日に義母とヤマハ音楽教室に行ったことなどを手紙にしたためていた。

日曜の病院は、さすがに閑散としていて「インフルエンザ予防のために」とか、「原則として面会を禁止します」などの張り紙が踊る一時期の公衆電話ボックスの様な正面玄関を通り、「日曜の面会を希望される方は総合受付へ」という張り紙に従って総合受付へ向かった。

総合受付の女性は子どもの手を引く私を露骨に怪訝な目をして見た。
「すみません、○○○号室の○○○(細君の名前)に面会に来たんですが」
「家族の方?旦那さんですか?、恐れ入りますがインフルエンザ予防のため、お子様は原則として面会は禁止されてますが」生え際に白いものが数本見受けられる落ち窪んだ目をした女性は、「一応、ナースステーションに確認を取ってみますが」といって受話器を取り上げた。

握った左手に彼女の不安を感じた。
手紙を持った右手を胸の所に押し当てて「大丈夫だって?」と不安そうに彼女は見上げていた。
出来るだけ不安を与えぬよう「大丈夫、大丈夫」といってはみたものの、受話器を持った受付の女性が交わす内容では大丈夫そうでは無い様子だった。

受話器を置きながら「やはりですね、お子様の面会は原則禁止になってまして、旦那さんだけは大丈夫とのことなのですが... その間、お子さんはここのロビーで待って頂いて...」と言いながら女性は受付カウンターの脇から出てきて、「おばちゃんとロビーで待ってることできるかな」と彼女の目線に合わせるようにかがんで言った。
彼女は見る間に両の眼に涙の粒をためて「やだもん、やだもん」と、右手に持った手紙を強く胸に押しつけながら私の陰に隠れた。

私は「しょうがないですね、わかりました。すみませんでした」といって踵を返し、左手に彼女の拒否の意思を感じながら正面玄関に向かった。
「しょうがないよ、だめなものはだめなんだから。違うことを考えてみよう」、彼は冷静だった。

女性に土砂降りよりそぼ降る雨のように泣かれるほうが、男にとって非常に酷である。それは大人子供に限ったことではないことだ。

正面玄関の外から、細君に携帯電話で事情を伝えた。
「私が総合受付のロビーに降りて行くから、そこで待ってて!!」。
「おい、おい、大丈夫なのか」とすでに切れた電話にいった。

総合受付ロビーに戻り、涙目をした彼女に「なんだってママ?、なんだって?」と聞かれ事情を話しながらソファーに座った。
総合受付のカウンターの奥では、先ほどの女性が「?」な顔でコチラをしばらく見据えていた。

ソファーに座ってすぐに携帯電話が鳴った。細君からだった。
「看護婦さんに事情を話したら、面会ロビーだったら上がって来て(面会して)大丈夫だって」。

一応総合受付担当の女性に事情を話し、「じゃ、話した看護師さんが違うのかしら...」と、いうつぶやきを背中で聞きながら、閑散とした廊下を彼女に釣られてスキップしながらエレベーターへ向かった。

エレベーターへ入ると、彼は早速メモ用紙を取り出して得意げに「4」と書いたボタンを押した後、メモを読み上げて我々に周知した。

細君は体内からガスが出て、昼からご飯を食べれるようになったとのことだったが、ひたすら濃い味の食事がしたいと子供たちに訴えかけた。

面会者専用ロビーでは、やたら髪の毛にボリュームがあり、見た目、通常より10cmは背が高いだろう振袖を着た女性が面会に来ていて、まわりに成人であることをこれ見よがしにアピールしていた。

これだけ成人であることをアピールすれば、総合受付ではさすがにスルーなんだろうなと、ふと思っていた。

*1:小児科病棟のためドアにクマさんが貼ってある