堕天使の旅路

自動車(くるま)を運転していて、すこしばかり油断していると、ケムシをうまいこと避けきれず、危うく轢きそうになること度度。

最近、頓に道路を横断するケムシが多い。完全変態に向けて、好みの草葉をたらふく食するため、餌(草)場を頻繁に移動するためなのだろう。ケムシは成虫になるため、これ即ち、くびれ(頭部・胸部・腹部)を拵えるためにウィーキングをしているということであって、二十代から三十代女性が、ウォーキングをはじめる半数以上の目的と同じことと思えなくもない。

ケムシが道路を横断する速度は、昔に比べると格段に速くなったように感じる。朝夕「はいっはいっはいっ」と拍子をとりながら、日課のウォーキングを勤しむ、近所のトクジロウさんのウォーキング速度並みであるように思えなくもない。

午刻、所用で自動車を運転していたら、ひたむきに青春を謳歌すべく、左から右に横断するケムシを見かける。その必死なケムシの様子を見ていたら、この頃、辛くあたる陽の光に熱せられたアスファルトが、この上なく熱いものだから、自然と早足になってしまう、ちょうど、暑い盛りに、海辺を目指して、不用意に太陽に熱せられた砂浜に足を踏み入れ、ポップコーンみたいに跳ねまわりながらも、爪先立ちで疾走する、そんな感じなのだろうか。ケムシの這い回る速度向上も、少なからず地球温暖化が影響しているかもしれない。けれども、そもそもムシに熱いだの冷たいだのを感じる、複雑な神経伝達回路は備わっているのだろうか。たぶん、生命を脅かすような危険を察知して、対応する感覚だけなのかもしれない。

────などと、ひとしきり考えていたら、生命に関わる事態を察知して、腹のムシがぐうと鳴った。