宝くじに夢見がち

本社まで片道400km弱。
特別なことがない限りこの距離を社用車でひた走る。残念だがファラ・フォーセットは同乗することはない。ここ最近は月イチのペースでこの距離を上って下って、ごくまれに下ってしまってパーキングのトイレに駆け込んだりする。

移動時間は5時間弱。
出張の移動だけで往復10時間弱を消費する。これは1日24時間のうち6時間を睡眠時間と考えると活動時間の55%強をこの移動に充てることになり、日本人男性の平均寿命を80歳とした場合、生涯のうちで本社出張のために移動する時間は... などと無駄に発意してしまうと、意地悪に設置されたオービスに一瞬視覚を奪われるほどのフラッシュをたかれ、生涯のうちで幾度目かの後悔ランキングを最新のものに更新する結果になるので注意したい。

基点から下り360km弱。
牛タンの赤いのぼりがはためきアイパッチをしたご当地キャラが目立ち始めたサービスエリアに乗り入れた際、ちょいと腰高でグラマラスボディの持ち主に遭遇。魅力的なヒップラインに「X6」のエンブレムを備えていた。
BMWx6

車の免許を取得してから、しばらくの間、ちょっと古くて個性のある様々な外国車ばかり乗り継いだ。そんな盛んな頃、BMW(べーんべー)は特定の古いモデル(2002(マルニ)、3.0CS、初代6シリーズ)にしか興味がなかった。「わかりやすく言えば俺らは右だ」という一生消えることの無い様々なものを背負ってしまった友達や、やはりソッチ系の知人らが燃費の悪さを毒づきながら5シリーズのシートに座り、重心をドア側に預けて運転する様などを見て、自分の中で勝手に下品なイメージを作り上げてしまったからだと思う。もちろんBMWに罪はない。
最近フランス映画を観てるとBMWがやたらとかっこいい。フランス映画じゃないとダメ。フランス映画限定。「あるいは裏切りという名の犬」だったか「やがて復讐という名の雨」だったか「いずれ欲望という名の闇」だったかは、定かではないがBMWがかっこよかった(それ以上にアルファロメオは当然かっこよかった)。純粋なフランス映画ではないが「トランスポーター」に登場する7シリーズも然りだ。
だが、10年前の結婚を機に自然と興味関心事は車から、家族・子供らへとパドルシフトした。車に対する関心事は地中深いところに埋めて、それ以上の関心をあえて抱こうとしないようにした。


伊藤園韃靼そば茶で喉を潤しながら、ちょいと周りをうかがって、五十音の「は」行を順にため息混じりに吐き出しているのに気づいて頬を赤らめながら、「X6」をぐるぐると反時計周りにまわって、チリの鉱山落盤事故で地下700mからの救出された作業員のように車に対する興味関心事が湧き上がった15分間。10年ぶりぐらいに心躍らされたスポーツ・アクティビティ・クーペ。実車を見て素直にいい車だと思った。
_bmw_x6

色気の無い社用車に乗り込みセルをひねりながら、頭の中の宝くじが当たったらリストに「BMW X6」と付け加え、あらためて手っ取り早く夢を買うことが出来る宝くじの効力を実感した先週末。
しかし宝くじは買わないと当たらない。